改めて問いたい。日本の理学療法士・作業療法士のアイデンティティとは何なのかを。
中川逸斗
2016/02/01

中川逸斗(Nakagawa Hayato) 株式会社ケアレンツ 取締役

1984年大阪府生まれ。同志社大学卒業後、大手外資系コンサルティングファーム2社(IBMおよびDeloitte)で様々な業界のクライアントの経営戦略構築や業務改善、マーケティング、ITプロジェクト等に従事。その後、医療・介護系企業でミャンマー・台湾・ドバイなどの国際案件や国内の事業企画等に従事した後、現職。

Facebook:https://www.facebook.com/hayato.nakagawa.37
先日、とある若手の理学療法士の方から、質問を受けました。
「海外では理学療法士・作業療法士の地位も給与も高いのに、なぜ日本はそうではないのでしょうか?」

入り口・出口。
私がよく使う言葉です。

例えば、「高速道路の渋滞を軽減するためには、どうすれば良いか?」という問いに対して
無理にアイデアを捻り出すのも良いですが、高速道路の入口と出口に、まず大きく分けて考えるべきです。ボトルネックはどこにあるのか。それを見出すきっかけになります。
こんな本があります。リハビリには直接関係はありませんが、是非読んでみてください。

「ザ・ゴール」
http://books.rakuten.co.jp/rb/1342466/

これと同じように、理学療法士・作業療法士の境遇・地位についても海外と比較して考えてみてください。

何が違うのか。

(A)入り口・・・・教育


要因1・・・学校数
日本は学校数が多いです。当然学校数に比例して学生数も多い。
キーワードは「希少性」と「偏在」です。

要因2・・・教育課程
海外で修士・博士課程を持っているセラピストは多いですね。修士や博士が日本でも必要なのかという問いに対しては、必ずしもYesとは言えませんが、学力のバラつきは、あるよりないに越したことはありません。
キーワードは「世間からのイメージ」です。

要因3・・・免許更新
多くの国では、免許・国家資格を更新しなければなりません。日本はそれがない。
キーワードは「技術と意識の向上」です。

(B)中・・・・院内教育


要因1・・・先輩の能力への依存
先輩のスキル・考え・思想にほとんどの人が影響されます。価値の触れ幅が大きくなるため、職種・個人のアイデンティティが育てるには、意識変革も時には必要です。
キーワードは「視点の変化」です。

要因2・・・縦軸のスキル、いわゆる“特殊化”に偏重
前回の記事にも書きましたが、院内で縦軸のスキルのみを教えることが多いです。しかし、そうあるべきだとも思いますし、否定するのはナンセンスです。ただ、院内に対する環境が厳しくなると、他の領域で活躍できる絶対数が少なくなる可能性があります。また、自分の給与がどのような仕組みで発生しているのか、業界の動向がどうなっている(く)のかは、最低限の知識として必要ですし、「給与が上がらないのは、保険内だから」という至極当然なことも知っておくべきです。
キーワードは「3軸の意識」です。
詳細は、こちらをご覧ください。
(セラピストは非日常的な成長が必要な職種?)

要因3・・・固定概念からの脱却
人によると思いますが、“お金儲けは悪だ”とか“臨床のみをすべきだ”という、一般的には、少し戸惑うようなご意見を持つ人が少なからずいる、というよりそれが大多数の意見のような気がします。(数百人のセラピストとお会いして感じる部分です。)(C)の出口の部分にも繋がりますが、これは保険制度に守られることを前提とした意見です。保険制度は、専門職種のためにあるのではありません。
キーワードは「固定概念の限界」です。

(C)出口・・・・土壌


要因1・・・保険制度への依存
よくもわるくも、日本は保険制度に守られているため、土壌を保険に合わせていくきらいがあります。
キーワードは「保険の限界」です。

要因2・・・他業界への理解
土壌はあるが、それをサービス・事業として如何に展開するか。
私がFIMを100%理解できないことと同じで、専門職の方々が、例えばビジネスのことを学ぶことは必須ではないと思います。
ただ、色々な方とお話をしていると、協力の意思表示をしている企業や団体を毛嫌いする専門職も多いのが、この業界の傾向のような気がします。
それが大多数になると、企業や諸団体は他の専門職種に切り替えることもあります。
キーワードは「他業界へのコミットメント」です。




上記、全てではありませんが、入り口から出口まで海外とは違うことが多いですね。
海外では、
厳しい(競争原理が極めて働く環境)教育を受けてきたセラピストの卵が、業界・個人のアイデンティティを確固たるものにするために、いわゆる“特殊化”と言われる“手技”に囚われることなく、様々な能力を駆使し、他の業界も変えていくことに熱心である。それは保険制度の有無の問題もあれば、個人の熱量と視野の広さも関係してくる。

故に

・教育 = 学力×教育課程・・・(A)
・院内教育 = (A)×視点の変化(個人の熱量)・・・(B)
・土壌 = (B)×他業界への影響・・・(C)

職種のアイデンティティ = 学力×教育課程×視点の変化×他業界への影響

もっと分かりやすく言い換えましょう。

職種のアイデンティティ = 基礎知識×成長意欲×肯定力×実行力

です。

ただ、世の中には、自分の意思で変えられるものと変えられないものがあります。
(A)を変えるのは、すぐには難しいと思います。
(B)はどうでしょうか。教育に一定程度の影響はされますが、視点の変化は個人レベルで変えることができます。
(C)はどうでしょうか。視点の変化をもって、他業界・他領域に影響させていくことはできますね。

教育にも一定の課題はあると思いますが、教育に責任転嫁するのはナンセンスです。
業界は個人単位での思想と実行を積み上げてできるものでもありますから。

「右向け右。」
これを繰り返していくと右にしか行けないのは当然です。
右に進むも良いですが、業界としてしなければならないことは、左に行く人を“否定しない”ことです。(もちろん、法令違反の場合は、この限りではありません)
業界に様々な思想があってもよいのです。
むしろ互いを応援しなければならない。

私は、台湾でよくリハビリ施設を見学することがあるのですが、現地の理学療法士が言っていた言葉が印象に残っています。
「高齢者分野での臨床経験は日本の理学療法士には絶対勝てないですが、アカデミックな領域では負けない自信がある」

これが国際比較におけるアイデンティティです。

日本の理学療法士・作業療法士のアイデンティティは何でしょうか?

職種におけるアイデンティティは常に国際基準でなければならないのです。
国内の類似職種への対抗心、ましてや同職種内での“手段”で争っていると、国際競争力は劣りますし、顧客の本当の声が聞こえないと思います。

少し刺激的な文章を書きましたが、私はそれでも日本での理学療法士・作業療法士の役割はさらに拡大し、もっと注目される時期がくると信じています。
その理由は前回の記事に書いた通りです。

(セラピストは非日常的な成長が必要な職種?)


 
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