知識はフローで学ぶ。大手監査法人のビジネスマンがPT・OT・ST へ伝える極意
2016/01/01
Written by GUEST


著者:大手監査法人勤務

○はじめに


最近は起業するセラピストの方が増えているようです。私は普段会計監査(以下、監査)の仕事をしていますが、将来はそういう方々のサポートもできればと考えています。
皆さんの中には初めて監査という言葉を耳にする人もいるかもしれません。 監査とリハビリテーション。 両者に直接的なつながりはありませんが、興味深いことに共通する部分もあるのです。

ひとつは、評価を通して業務を行うということです(図1)。




リハビリテーションでは、患者さんの状態を項目ごとに評価し、その結果を積み上げて、全体としてどのような状態であるかを評価します。
一方、監査は会社の計算書類が適正に記載されているかどうかを確かめます。その過程では監査対象を各勘定に分類してそれぞれ評価していきます。

つまり、両者とも評価対象を細分化して個々の評価を積み上げて全体としての評価をするという点では同じなのです。

もうひとつは専門性が要求されるということです。

リハビリテーションであれば医学的知識、会計士であれば会計・税務の知識が必要です。それらは共通言語や様々な理論に基づくものです。また、実務では制度改正等への対応も求められるため、常にプロフェッショナルとして日々の自己研鑽が求められます。

最初に起業する人が増えているという話をしました。他にも、フリーのセラピストとして活動したり、労務管理や業務改善、コミュニケーション能力養成等人材育成に取り組む方もいます。 高齢社会の中で、セラピストが自身の専門性を元に活動の幅を広げることは大切なことです。

○セラピストに不足しがちな「知識」と「人脈」


最近、病院や介護事業者の倒産は増加しています。国の予算も限られており、診療報酬は抑制される傾向にあります。このことは、セラピストも目の前の仕事を一生懸命していれば良いという時代ではなくなったという事を意味しているともいえます。とはいえ、これまで非営利という特有の環境で働いていた人が経営を意識したり、また起業することも簡単なことではありません。

一般職であれば学校を卒業して就職すると、様々な部署の業務を経験して水平的な成長をする事ができます。(セラピストは非日常的な成長が職種?Vol.1 参照)
しかし、セラピストは学校では基本的に国家資格を取得するための勉強をして、その知識を基に就職後は経験を積んでいくため、水平的成長をする機会は少ないかと思います(図2参照)。




臨床では分からないことがあれば、上司や先輩に質問したり、文献を読みます。またはセミナー等の参加を通して知識・経験を高める事で解決できることもあります。

では、これが 「業務の効率化」 「仕組み化」 であったらどうでしょう。世の中には様々な分析手法やフレームワークがあります。本屋にはそれらを説明する書籍はたくさん並んでいます。しかし、それが本当に自分のケースに適しているか分からない。また、もっといい方法があるかもしれないが、そういった知識を持つ異業種の人と交流する機会もない。
言い換えればそのふたつがあればある程度の問題は解決できるということです。
私はそれらを可能にする場がオヤミルであると考えているので、今後のイベント等を通して是非様々な人と交流を深めて頂ければと思います。

○自分の業界の理解ももちろん大切


視野を広げるためには、まずもってセラピストとしての専門性が土台になってこそです。そのため自分の業界についてもっと深く理解する事も大切です。

「医療保険や介護保険の内容について」
「医療機関が診療報酬・介護報酬を得るまでの流れ」
「そもそも、なぜ医療は非営利と言われるのだろう」

その知識はストック(一時点)としてではなく、フロー(流れ)として理解している事が大切です。例えば、最近学校を卒業された方は現行の診療報酬について知ることになります。では、以前はどのようなものだったか。なぜ現行の体制になったのか。そんな疑問を持ちながら、現在の疾患別リハビリテーションや7対1入院基本料の始まりについて調べてみると面白いと思います。

知識は、「why」を繰り返すことで定着します。

今、歴史に関する本の売れ行きが好調です。ベストセラーとなるものは年号や出来事だけを解説したものではなく、歴史を踏まえながら現代の問題を分かりやすく解説しています。身近な現代の事例に関連させることで記憶にも残ります。

何気ない新聞記事からも医療福祉業界を深く理解することもできます。以下に例示しますので、一緒に考えてみましょう。

今回は、消費税の増税を取り上げます。

実は、一般企業よりも医療機関の方が消費税増税の影響はより深刻なのです。


消費税は預かった消費税から支払った消費税を差し引き、その残額を納付するという間接税の形式をとっています。

直接税 :税金の納付者と、税金を負担者が同じである税金。所得税や法人税など。
間接税 :税金の納付者と、税金を負担者が異なる税金。酒税やたばこ税、消費税など。

私たちは普段企業から商品・サービスを買います。そして、支払いの際には消費税を負担します。

しかし、保険診療の対象となる医療行為は、消費税は非課税となっており、患者が負担することはありません。患者から受け取る事が出来ない消費税は病院が負担する事になります(図3)。診療報酬の改正により補填されることも考えられますが、その影響を緩和するには十分ではありません。




そのため、消費税増税は一般企業と医療機関で負担割合に一層の差が生じてくるのです。

いかかでしょうか。例示を通して税金が医療機関に与える影響を少しでも身近に感じて頂ければ幸いです。

○最後に


今回は基本的なことを書かせていただきました。
ただ、何事も基本が大切です。

新年を迎え、新たな目標を立てる人も多いと思います。
自己分析を通して自分を見つめ直すいい機会かもしれません。
その際、この記事が参考になれば幸いです。


 
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