セラピストは非日常的な成長が必要な職種? Vol.2 - デジタルと教育がキーワードになる業界 -
2015/11/01
中川逸斗(Nakagawa Hayato) 株式会社ケアレンツ 取締役
1984年大阪府生まれ。同志社大学卒業後、大手外資系コンサルティングファーム2社(IBMおよびDeloitte)で様々な業界のクライアントの経営戦略構築や業務改善、マーケティング、ITプロジェクト等に従事。その後、医療・介護系企業でミャンマー・台湾・ドバイなどの国際案件や国内の事業企画等に従事した後、現職。
Facebook:https://www.facebook.com/hayato.nakagawa.37
Facebook:https://www.facebook.com/hayato.nakagawa.37
以前投稿した記事 「セラピストは非日常的な成長が必要な職種?」では、下記2点を論点として、投稿させていただきました。
【論点1】
セラピストは、垂直的成長(Y軸)と水平的成長(X軸)を高めつつも、非日常的成長(Z軸)を意識していかなければ、現在のセラピスト業界の波に飲み込まれてしまうこと。
【論点2】
そして、業界自体は、【論点1】の3つの軸をもとに枝分かれし、それに伴いセラピストのキャリアも大きく3パターンに枝分かれしていくことを示唆しました。
詳しくは以前の記事をご覧ください。
「セラピストは非日常的な成長が必要な職種?」
以前の記事に、3つの軸で業界が進んで言った場合のキーワードは、「教育」と「デジタル」であると書きました。
まず、なぜ教育というキーワードなのか。
それは、下記4つのポイントを今後押さえる必要があるからです。
① 介護人材不足
② 自助・互助への動き
③ セラピストのできることの多さと、職種としてのポジション確立。
④ リハビリ人材の偏在
そして、当業界における教育とは、PTOTSTが「誰に」教育するものでしょうか。
教育の対象は下記の3つが考えられます。
① 介護職員
② 高齢者やご家族等のご本人
③ PTOTST
先日の記事にも書きましたが、業界は3つの方向性で動きますので、ここでいう教育は手技ではなく、どちらかというと アセスメント方法と予防等のトレーニング方法、介助技術、就労支援等となるでしょう。
③ は現在、介護・地域領域で働いているPTOTSTが、介護・地域領域に参入するPTOTSTに教育するという定義です。
このように、PTOTSTが他職種やご家族・ご本人に教育するモデルを確立していかなければなりません。
そういう意味では、同職種の同価値観の方だけと固まっていてはいけないと認識しております。
とある介護者の会の代表の方も、「同職種だけ集まっていても、何も始まらない」と仰っており、様々な職種やその先にいるご本人・ご家族に影響力を及ぼさなければなりません。
そういう観点からも、私たちは「オヤミル」を立ち上げたのです。
では、この「教育」をどういう手段で実施するのか。そのキーワードが「デジタル」なのです。教育の手段は大きく分けて下記の2種類です。
① リアル
② デジタル
当然、教育はリアルが最も適しています。ただ、遠隔診療が解禁になり、様々なデバイスが登場している今、ソフトウェアの力を活用し、世の中全ての人が簡単にリハビリ資源にアクセスできる世の中を作っていく必要がありますし、前に申したように、手技に関する教育ではないので、リアルである必要性も乏しいです。 もはや教育はデジタルなしでは語れない世の中になっています。
(例)
・スクー(https://schoo.jp/guest)
・受験サプリ(https://jyukensapuri.jp/)
・e-Education(http://eedu.jp/)
では、各論に入りましょう。
まずは、教育する先とリアル・デジタルの2軸でマトリクスにしてみましょう。
私は、個人的にデジタルの力を信じています。もちろん診察・診断はWebで全てはできません。ただ、「マッチング」や「きっかけ」には最も適しており、リアルではなかなか実現できないことも可能です。
例えば、PTOTSTが介護職に教育するとして、教育して欲しい介護職と、教育できるPTOTSTがたまたまリアルで出会い、教育する・されるポイントが2者間で奇跡的にマッチする。というのは、とても低い確率になるのです。
それがソフトウェアの力を使えば、数回のクリックで済みます。
これに批判的な方もいるとは思いますが、逆に双方のニーズをマッチングさせて情報と知識の非対称性を低減する他の手段を提示してほしいとも思います。
では、例えば海外ではどんなデバイスやソフトウェアがあるのか、ご紹介しましょう。
- プロの医療従事者と患者との理想的なマッチングを支援するサービス
「Careplanners」 - パーソナライズドされた医療プログラムをスマホで管理するサービス
「Rip Road」 - 医療業界に勤める人たちが、医療従事者に対して有料で質問ができるサービス
「Truth on call」 - 乳幼児のモニタリングを行うソックス型デバイス
「Owlet」 - セカンドオピニオンとのマッチングサービス
「Grand Rounds」
前回の投稿で少し触れた「Medical」と「Care」、そして今回の各論である「Educator」と「Player」で今後の業界予想を簡単に表現してみましょう。(リアル・デジタルというのはあくまで手段です)
4つの象限で表現することができます。
① Medical領域のEducatorである「Profession」
② Medical領域のPlayerである「Turning point」
③ Care領域のEducatorである「Creator」
④ Care領域のPlayerである「Super care worker」
キーとなるのは、当然現在のセラピスト人口の大多数を占める「Turning point」です。
この領域の方々が特に業界の波に良くも悪くも飲み込まれていき、個人の動き方によってキャリアが大きく変わってきます。(一概にどれが正しいとは言えませんが)
そして、大きく3パターンに分かれます。
- 介護・地域領域に参入する人
(これらの人は現在、介護・地域領域にいるPTOTSTに教育される側、つまりPlayerになる可能性があり、アセスメント能力がなければ、この領域での介護職との差別化は難しくなります。) - スキル・マネジメント能力に優れた人
(これらの人は、院内で技師長になることができたり、法令を遵守した上で自費サービスを行います。前者は一部年功序列であることは否めませんので、限られたごく一部の人たちと換言できます。) - 管理者・教育者・イノベーター
(Creatorになる人たちです。新たなモデルを創出したり、介護・地域領域での教育者になる、介護施設での管理者としてのポジションを確立する人たちです。もしくは誰かが作る新たなモデルに乗っかる人も含まれます。)
極論すると、数年後は、ロボット技術の発達、遠隔診断の発達によって、ロボットやリハビリ器具にIoT技術が付加され、診断技術が人工知能に置き換えられる可能性も十分あります。例えば、あるロボットスーツを着た利用者さんの最も悪い部分を人工知能が認識し、何をすべきかが自動的に確率で表示される。となると、職種自体がなくなってしまいますよね。可能性としては否定できません。
一方で、PTOTSTにしかできないことが、まだあります。PTOTSTは基本的に身体に触る専門職種であると同時に、個人的には“アセスメント能力”がPTOTSTの真骨頂であると考えています。
本人の身体状況を筆頭に、ご家族の介護マンパワー、ご本人の社会歴・家族歴、住宅環境状況、そしてご本人の意思・ご家族の意思など、複合的な要素を踏まえて、評価し、何をすべきかを具体的に洗い出し、ご本人の作業の評価をできるスキルがあるのです。
その複合的な要素を全て踏まえてアセスメントがIoTで可能なのか。それは少し先の話であるような気がしますし、やはりその領域は人の手や心を介する必要があると思います。
ですので、10年後、20年後の来る未来に備え、上記のアセスメント能力をさらに身に付け、そして拡散していく必要があると第三者から見て思います。
そのためには、様々な業界の方に拡散し、意思決定をするご本人・ご家族の方との接点をもっと増やすことが肝要であると思います。病院では、リハビリ期間は限られていますから、テンポラリーな関係性になるのは仕方がありません。ですので、地域・介護領域でずっと繋がっておく。そして自分たちは何ができるのかをPRしていく。エビデンスは数値だけではないと思います。必要だという本人たちの声があれば、それがエビデンスになることもあると思いますし、アセスメントによる利用者さんの生活の変化をエビデンスとして取っていく必要があるのです。
というのも、技術は「手段」ですから、技術と利用者さんの生活の間に相関があるとしても、その因果関係には言及することは困難です。一方でアセスメントによる「選択」と利用者さんの生活の変化は、因果関係そのものです。
このアセスメントという真骨頂があるからこそ、PTOTST全体の数%は、教育に特化しても良いと思うのです。
また、個人的には米国のような医療の選択化は起こらないと考えています。医療保険を根底から覆すことになりますからね。でも、人材も含めた地域資源の選択化は起きると思っています。そう考えると、「地域資源の最大勢力」になるというのが、論理的かつ貢献的な議論ではないでしょうか。
そのキーワードが「教育」と「デジタル」であると、私は思うのです。
では、今からPTOTSTの方が準備しておいたほうが良いだろうなと思う個人的な意見を下記にまとめます(あくまで、個人的な意見ですし、偉そうなことを言うつもりはありません。)
- アセスメント能力を徹底的につける
- デジタル、Web、IoTなどの情報をキャッチし、その業界の人と対等に話せる能力を身に付ける
- コミュニケーション能力も含めた教育能力を身に付ける
- 技術的発想ではなく、利用者ニーズ発想を徹底的に(当然のことですが)
- 一人ひとりが、目の前の患者さん・利用者さん+αを考える
- 他業界のプロと企画を一緒に作ることができる企画スキルを身に付ける
- Web・リアルにかかわらず、他職種・ご本人と接する機会を増やし、生活視点で貢献していく
これを20万人のPTOTSTの方全員が実施すれば、業界と世の中は変わると思います。