「立つ」ということについて考える
けんちろ
2016/05/08

「立つ」ということについて考えてみます。
 
生活のなかで何気なく立って作業をする機会も多いですが、立つとはいったいどんなことなのでしょうか。

それがわかると立てない人の介助法がわかってきます。
 
少し違った形で考えてみましょう。
「立つ」とは「転ばない」ということです。
では、転ぶとはどういう状態を言うのでしょうか。
 
転ぶことを理解するには「支持基底面」と「重心」についての理解が必要になります。

物理の話になるのでちょっと難しくなりますが絵を交えて考えていきましょう。
 
重心は我々の場合お臍のあたりにある、体の重さの中心と思ってもらえるとわかりやすいです。
そして重心は地球に向かって落ちていますが、足の上に重心があると人は安定して立っていられます。
 
これは立っている図です、そして隣が転んでいる図です。

 
左の人は足の上に重心があります。右の人は足の上から外れたところに重心があります。今はまだ転んでいる最中ですがこのままいくと尻もちをつくのは明白です。つまり転んでしまう、ということですね。
 
体を支えている足の位置から外に「重心」が出てしまっていることを転んでいる、といいます。
この足の面積を体を支える基本の面積、「支持基底面」と言います。
 
図を見ると「気を付け」の足の位置より「休め」の足の位置の方が支持基底面が広くなっているのがわかりますね。
 

 
足を広げると安定して立てるのは、この支持基底面が広がったことで多少体がふらついても重心が支持基底面から飛び出ることなくいられるからなのです。
 
さらにもう一つ付け加えさせていただくと、転ぶということは支持基底面の外に重心が出てしまい、その状態を修正できなかったときを転倒と定義されています。
先ほどのように転びそうになっても、足を後ろに一歩さげて(=支持基底面を広げて)重心を安定させることができれば転んだ、とは言わないのです。
 

 
では立っていることができない、というのはどういうことかを改めて考えてみましょう。
 
立っていられない、ということは2つに分けられます。

①立てない
②立てるけどバランスを崩して転んでしまう

 
①の立てないは足に力が足りなくて立っていられない、という方がいます。
足の力が単純に足りない場合です。
そういう場合は、足の力を補うことで立っていられる可能性が高くなります。
たとえば手すりに掴まることで、足にかかる体重を腕で支えられるため足の力が足りなくても立てます。
立ちたい場所、例えばベッドやトイレや玄関などに手すりや掴まるものを置いて掴まれるようにするといいでしょう。
 
では足の力は十分あるにも関わらず立っていらない場合はどんな場合でしょうか。
これは②の立てるけどバランスを崩して転んでしまう、という場合です。
足の力は足りているのに重心を安定させることができなくなる病気があるからです。
 
この場合、重心を安定させるためにアプローチするのが「重心の移動を大きくしない」「支持基底面を広げる」の2点です。
 
<重心の移動を大きくしない>

重心が不安定になる原因もいろいろと考えられますが、病気によって重心を安定させられない場合以外の例として、滑りやすい靴下やスリッパを履いていると滑った時に大きく体が傾いたりして重心が不安定になります。
滑りやすいということは、重心が大きく移動する可能性があります。そのような不安定な状態で安定して立っていることは難しいです。凍った道路を歩くことをイメージしていただければ近いかと思います。
ですので、ちょっとしたところですが滑りやすい履き物を履いていないか足元をチェックしてみてください。
病気そのものが原因で不安定になってしまう場合は重心移動を抑えることが難しいので、専門家に相談してみてください。
 
<支持基底面を広げる>
どちらかと言えば、こちらのほうが有効です。
やり方は簡単で、少しがに股になってみる、杖をつく、歩行器などを使う、といった方法で支持基底面を広げて安定して立つことができます。
また、杖や歩行器は支持基底面を広げるだけでなく、手の支えで足を補助することになるためより安定感が増します。
簡単で一石二鳥ですので歩行器や杖を使うのは立つのが不安定な人にはおすすめです。
杖がいいのか、歩行器がいいのかは専門家に聞くのが一番ですが、目安としては何もなしで歩けるなら杖、何かに捕まらないと歩けないなら歩行器がいいかと思います。 
ことわざに「転ばぬ先の杖」という言葉がありますが、これは支持基底面を広げることで転倒を予防できるぞ、と解釈することもできます。
 
昔の人の言うことに間違いはないですね。
 


この記事を書いた人
昭和49年生。熊本県熊本市出身。
平成9年西日本リハビリテーション学院理学療法学科夜間部卒業。

夜間学校と平行して病院での介護助手を経験し、排泄や食事、起きて過ごすことといった当たり前の生活行動が人を支えることを学ぶ。

卒業後病院経験を経て、訪問診療のクリニックで訪問リハビリテーションに黎明期から携わる。退院後の生活を支えるだけでなく、医師との密な連携の中で自宅での看取りや癌や難病などの療養支援を行う。

自治体の住宅改修のアドバイザーも務め、障害の特性に合わせるだけでなく家族情況や予算など実生活に即した視点を持つ。

理学療法士養成校での専任講師を経て現在は複数の施設に関わりながら、新人教育のフォローなど利用者支援以外でも活躍している。
地域生活をフィールドに、楽に暮らす=心地よく生きることを自他に推奨する、理学療理学療法士っぽくない理学療法士。